さよならの魔法
分からないことだらけだったけれど、逆に全てが新鮮に思えて、楽しいとさえ感じるのだ。
高校に入ってすぐ、友達も出来た。
新たな人間関係を築くことが怖かったはずなのに、その壁を打ち破ることが出来たのは、魔法の言葉のお陰だろうか。
真新しい制服。
紺色のジャケット。
まだ固さの残るジャケットの中には、真っ白なシャツ。
そして、白いシャツによく映える、赤いリボン。
赤いリボンと同系色で纏められた、チェックのスカート。
着慣れない制服を着て、初めて座る席で縮こまっている。
(3年前、みたい………。)
ああ、思い出す。
思い出してしまう。
中学校の入学式を。
紺野くんに初めて会った、あの日のことを。
桜が、とても綺麗だった。
舞う桜が踊っているみたいで、淡いピンクに染め上げられていく景色が美しかった。
忘れることが出来ないあの日を、密かに思い出す。
あの日。
教室のドアの前で、私は今みたいに縮こまってた。
初めて会う人ばかりで、緊張していて。
ガチガチに固まってしまって、前に進むことさえ出来なくて。
すれ違う人に、挨拶すら出来ない自分。
そんな自分が嫌で、嫌で、悔しくて。
(さよなら………。)
あの日の私と今の私は、違う。
3年前の私と今の私は、全く違うんだよ。
あの日、魔法をかけたじゃない。
何も言えない自分に、ちゃんとさよならをしたじゃない。
さよなら。
さよなら。
勇気を出して。
ねえ、私は、もう3年前の私なんかじゃない。
さよなら。
さよなら。
あの日の私は、ここにはいない。
もう、ここにはいないのだ。
変わるんだ。
変えてやるんだ。
こんな自分を。
今までの自分を。
私は思いきって、前の席に座る女の子に話しかけた。
「お、おはよ!」
肩をトントンと軽く叩いてから、挨拶を口にする。