さよならの魔法



「ハルー、せっかく綺麗な足してるんだから、その曲線美………見せ付けちゃいなって。」

「きょ、曲線美?」

「よーし、ハルちゃん!!スカート短くしちゃいましょうか!」


制服のスカートを初めて短く詰めた時も、2人と一緒だった。



いじったことのない真っ黒な髪も、ほんの少しだけ茶色く染めた。

派手にはなり過ぎない、ナチュラルなブラウンに。


変わっていく外見に1番驚いたのは、一緒に住んでいるお父さんだ。




「ハル、お前、何だか変わったな………。」

「そ、そう………かな。」


変えたかった。

変わりたかった。


あの頃の自分を忘れて、新しい自分に生まれ変わりたかった。


捨てたかったのだ。

過去を。



「垢抜けたというか、………大人っぽくなったな。」

「え?」

「そうか。お前も、もう高校生になったんだな。」


感慨深そうに、私を見て目を細めるお父さん。


お父さんが変わった私を見て、否定的な言葉を口にすることは1度もなかった。

成長しようと背伸びする私を、そのまま受け入れてくれた。


素直に、そのことをありがたいことだと思った。







ほんとはね、怖かったんだ。

正直なことを言うならば、私は躊躇いを感じていた。


新たな人間関係を作ることに。

新しく、友達という存在を作ることに。



私の中で、消えない記憶があるから。

どうしても、忘れられないことがあったから。


橋野さんの言葉を忘れたことは、1度もなかった。



「天宮さんはずるいよ。………ずるいんだよ。」


また、あんな風に言われたら、どうしよう。

その時、私は立ち直れるのだろうか。


千夏ちゃんや千佳ちゃんに、同じ言葉を口にされてしまったら。



「友達なら、………だったら、1人だけ逃げるなんて………許さない。」


同じ風に思われていたら、私はどうしたらいい?



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