さよならの魔法



「でも………」


それでもまだ怯えてしまうのは、あの頃の記憶が未だに私の中に色濃く残るから。

中学生だった頃の自分が、今の私をも支配しているから。


怖がる私に、千夏ちゃんが囁いた。



「ハルの居場所は、ここにあるよ。ハルが帰ってくる場所はここなんだから、全部が終わったら帰っておいで………。」

「そうだよ。大丈夫だよ、ハル。」


千夏ちゃんと千佳ちゃんがそう言って、より一層、私の体を強く抱く。



「私の居場所………。」


自分のあるべき場所。

心安らげる場所。


それは、ずっと欲しかったもの。

喉から手が出るほど欲しくて、だけど、手に入らなかったもの。


あの小さな町では手に入れることが出来なかったものが、今、ここにある。

私の手の内にある。



逃げ出した私でも、手に入れたものがある。

失ってしまったものばかりではなかった。


大切な友達を手に入れた。

心を許せる人間関係を、この街で築くことが出来た。



遠回りだったかもしれない。


でも、無駄じゃなかった。

無駄なことなんて、何1つなかったんだね。



「私達、ハルを待ってる。ここで、ずっと待ってるよ。だから、行っておいで!」



つらいけど。

怖いけど。


怯える気持ちがなくなったりはしないけれど。



それでも、私は頑張れる。

もう1度、頑張ろうと思えた。


私を待っていてくれる人がいるのなら。

私を、ここで、この街で待っていてくれる人がいるのならば。







数日後。

私は、返信用のハガキを投函した。


震える手で、出席の方に丸を書いて。



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