さよならの魔法
『残像』
side・ユウキ







大学でも勉強に追われ、俺は忙しい毎日を過ごしていた。


楽しいことばかりではないけれど、自分の為になる。

未来の自分の力になると、そう思って。



大学2年になった年の、秋も終わりに近付いた頃。

冬がすぐそこまでやってきている、そんな季節に届いたハガキ。


真っ白な1枚のハガキは、俺を記憶の渦の中へと放り込んだ。








紺野 有樹 様



20××年1月10日


市立弥生が丘中学校

平成××年度卒業生

3年1組 同窓会を開催します。



ご都合のよろしい方は、是非参加して下さい。



ハガキを手にした時に浮かんだのは、残像。


誰かの影だった。



(………、誰………だ?)


脳の端に宿る、記憶の欠片。

その欠片は切ない痛みを放ちながら、存在を必死に訴えている。


忘れてはいけないと。

思い出せと。


チクリと痛むのに、その影を追いかけてしまう。

その残像の正体を知りたいと思ってしまう。



泣いている。

誰かが、俺の記憶の中で泣いている。


セーラー服を着た少女が、静かに涙を流していた。



知っている。

俺は、この子のことを確かに知っている。


だって、これは俺の記憶だ。

実際に、俺がこの目で見たものだ。


俺は、涙を流す少女から、ほんの少し距離を開けたところで見ているんだ。

あの子のことを。



涙って、こんなに綺麗なものなんだ。

美しいものなんだ。


そう思ったことを、今でもはっきりと覚えている。



その涙に、濁りはなかった。

打算や嫉妬、悔しさから出たものではなかった。


だからこそ、純粋に美しいと思えたのだ。



しゃくり上げる訳でもなく、嗚咽を漏らす訳でもなく、その少女はただ黙って泣いていた。

前を向いて、無言で涙を流していた。


そう。

あの子の名前は。




(誰か、じゃない………。)


天宮だ。

記憶の中で泣いているのは、天宮だった。



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