さよならの魔法



驚くほど、窓辺は冷たい。

外にいるのと、変わらないくらいに。


着ているコートを羽織ったまま、外の景色を眺める。



「そっか。今日は、成人式………か。」


私にとって、成人式なんて他人事の様なものだった。


同窓会に出るけれど、成人式にまで顔を出すつもりは毛頭ない。

そこまでの強さは、私にはないのだから。


出る気がなかったから、すっかり成人式だということを忘れてしまっていたのだ。



そうだ。

何日か前、メールで写真が送られてきていた。


貼付されていたのは、着物姿の千夏ちゃんと千佳ちゃんで。

お揃いだけど色違いの艶やかな着物を着た2人の写真を、この目で見たばかりだったのに。


同い年の自分も成人式に出席する権利があるのだということが、頭からすっぽり抜け落ちてしまっていたんだ。




綺麗だったな。

実際に目の前で見たら、もっと綺麗に見えるんだろうな。


きっと、今頃は千夏ちゃんと千佳ちゃんも、成人式に出ているのだろう。




(冷たい………。)


窓ガラスにそっと触れて、伝わる感覚。


氷の様なその感覚は、ざわめく私の心とは正反対の冷たさを抱く。

気を抜いてしまったら崩れ落ちてしまいそうな心を、シャンと引き締めてくれるのだ。




ここは、私が生まれた町。

15歳までの長い年月を、私はこの小さな町で過ごした。


この町で生まれた私には、本来ならば、この町で行われているはずの成人式に出席しなければならない。



同い年のみんなと、同じ様に。

この町で生まれ育った他の人と、同じ様に。


だけど、どうしてもそんな気にはなれなかった。



まだ、心の準備が出来ていない。

同窓会に出席することだって、ギリギリまで悩んでいたのだ。


電車に乗る寸前まで、躊躇っていたほど。



だけど、私は背中を押された。

大切な人達に見送られ、ここに来た。


心の準備が出来ていなくても、躊躇っていても、ここに立てているのは大切な人達のお陰だ。



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