さよならの魔法
「ハルの居場所は、ここにあるよ。ハルが帰ってくる場所はここなんだから、全部が終わったら帰っておいで………。」
あの時、千夏ちゃんがそう言ってくれたから。
「私達、ハルを待ってる。ここで、ずっと待ってるよ。だから、行っておいで!」
あの時、千佳ちゃんがそう言ってくれたから。
あの2人の言葉があったから、今、私はここにいる。
この町に戻る勇気が持てた。
2度と、この町に戻ることはないと思っていた。
帰ってこないと決めていたこの町に、足を踏み入れることが出来たんだ。
電車に乗る前も、ホームまで2人は見送りに来てくれた。
「ハル、いってらっしゃい。」
「ここで待ってるからね!」
笑顔で、そう言ってくれた。
私が戻るべき場所は、ここなのだ。
お父さんがいる、この街。
千夏ちゃんと千佳ちゃんが待っていてくれる、この街なんだ。
「必ず、ここに………みんなのとこに帰ってくるから。」
「当たり前でしょ!!」
「いってきます………!」
私はそう言って、ふるさとへ向かう電車へと飛び乗ったのだ。
この町へと帰ることだって、最低限の人にしか伝えなかった。
実の母親にさえ言わず、私は帰ってきていた。
目に見えて、分かっていたから。
決して、歓迎されないことを。
いい顔なんて、されないだろう。
離婚してから、5年。
連絡を取ろうと思えば出来たのに、私は連絡しようと考えたことすらなかった。
冷たい子供だと、罵られるはず。
愛されなかった。
同居しているというだけで、娘として見てもらえることはなかった。
帰ると伝えたところで、迷惑な顔をされるだけ。
親孝行もしない娘が帰ってきたところで、嬉しくも何ともないだろうと、そう思ったのだ。
母親に告げずに帰ってきたのだから、母親の元へは行けない。
親戚がこの町にいることは知っていても、頼ることなど出来やしない。