さよならの魔法



「よりは戻せない。………やり直せない。」

「ユウキ………、嘘だよね?嘘でしょ………?」

「もう俺は、そんな風に………茜のことを好きになれないんだ。」


俺の本音は、茜には受け入れられないものだっただろう。



「茜のこと、もう好きじゃない。好きになれない………。」

「い、や………嫌だ………、嫌だよ………!!」

「茜………。」

「ユウキは、私だけのものだったのに…………。さよならなんて、したくないのに………、そんなの嫌、だよ………!」



茜と再会したことに思ったよりも衝撃を受けなかったのは、分かっていたからだ。


同じ町で生まれ育った茜が、ここに来るであろうことを。

茜ならば、ここに来るのを選ぶことを。



俺と矢田は、似ている状況の様でいて、少しだけ違うこともある。


矢田と林田は、同じクラスになることはなかった。

同じ学校で出会った2人だったけれど、3年間、1度として同じクラスになることはなかった。



しかし、俺は茜と同じクラスだった人間。

1年の時は別のクラスだったけれど、2年になってそこから卒業するまでは、ずっと同じクラスだったのだ。


別れた後も、ずっと。



同じクラスだった茜とは、夜に開かれる予定の同窓会でも、顔を合わせることになるだろう。

間違いなく。


ああ、最近の俺はおかしい。


昔のことばかり、思い出している。

戻れない頃のことばかり、思い出している。



「もう、過去………だから。」


そう。

過去なんだ。


茜とのことは、既に過ぎ去った過去の時間の流れの中でのことだ。



あれから、5年もの時間が流れたのだ。

5年という時間は、決して短いものではない。


今は、あの頃の熱い想いも、葛藤もない。


だから、こうして立っていられる。

動じずに、そのままの自分で立っていられるのだ。



「すげーな、紺野。」

「は?」

「ちょっとだけ、お前のこと………尊敬するわ。」



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