さよならの魔法



今も。

これから先も、ずっと。



私は松島くんのこと、そういう風には見られない。




「じょ、冗談………きつい………」

「冗談じゃないって、本気!」


その言葉の、何を信じろと言うのか。

あの頃の松島くんのことを知っているのに、今更、そういう目で見ろと言うのか。


松島くんがあの頃と変わって、いい人になっていたとしても、松島くんの本気だけは受け取れないだろう。

私は。



「とりあえず、飲もっか。」

「あ、うん………。」

「天宮は、ビールがいい?それとも、カクテルみたいな甘いのがいい?」

「ビールで………お願いします。」

「りょーかい!」



徐々に距離が縮まっているのは、気のせい?

だんだん近くなっている様な気がするのは、勘違いだろうか。


どんどん後退りする私に、周りの女の子が囃し立てる。



「ちょっと、何で天宮さんのこと、口説いてんのよー!」

「そうだよー、そうだよー!」

「もしかして、本気で天宮さんのこと、狙っちゃってんの!?」


冷やかす声に、松島くんが不気味なくらいに微笑みながら、その言葉を肯定して頷く。



「あー、うるせー、うるせー!天宮と話したいんだから、お前らは邪魔すんじゃねー。」

「ちょっと待ってよ!うちらだって、楽しくみんなで飲んでるんだから。」

「女子会なんだから、邪魔なのはあ・ん・た!!」


ダメだ。

抜け出せない。


意外な展開とおかしな空気を纏いつつ、時間は流れていく。



彼との接触は、ないままに。










視界の端には、ずっと2人の影がちらついていた。


忘れられなかった人と、その人が大切にしている人。

私の手が届かないところで、輝いている2人。



見たくなかった。

現実を。


出来るなら、夢を見ていたかった。

叶うことのない、夢を。



視界に入り込まない様に、わざと背中を向けた。


近付くこともなく、言葉を交わすこともない。



それが、あの頃と変わらない、私と紺野くんの距離だった。



< 389 / 499 >

この作品をシェア

pagetop