さよならの魔法



女の子の集団に、男が1人で突っ込んでいくということは考えているよりも勇気のいることだ。


女が集まる。

それだけで、ちょっとした武器になる。


だからこそ、俺も躊躇していたのかもしれないが。




「うるせーな、別にいいじゃん。」


部分的に聞こえてくる、松島の声。

女の子の集団に囲まれても、気にはしていないらしい。


まあ、気にするくらいの男なら、最初から突っ込んでいくことはしないとも思う。



この店の主の息子でもある、クラスメイトだった松島。


松島が座ったのは、あの天宮の隣だった。




何を話しているのだろう。

一体、何を話すことがあるというのだろうか。


気になる。

気になってしょうがない。


聞き耳なんて立てたくないけど、意識はそちらに向いていく。

しかし、遠い距離が邪魔になって、天宮と松島がいる周辺の声がはっきりと聞こえてくることはなかった。



(あの松島が、よく天宮の隣に行けるよな………。)


俺は知っている。

6年経った今でも、俺は覚えているんだ。


アイツは、天宮のことをいじめていた。

磯崎と一瞬になって、天宮のことを苦しめていた。



それなのに、天宮の隣にいるのは松島だ。

天宮をいじめていたあの男が、笑って彼女の隣に座っている。


何でだよ。

どうしてなんだ。


どうして、笑えんの?



俺は、誰を責めたいのだろう。


平気な顔をして、天宮の隣に座っている松島を責めたいのか。

それとも、そんな松島の隣で微笑みを浮かべている天宮のことを責めたいのか。


分からない。

分からないんだ。



忘れたのかよ。

あの頃のことを覚えているのは、俺だけなのか。


みんなは、もう6年も前のことなんて忘れてしまったのか?



あんなに壮絶だった、あのいじめのこと。


磯崎の悪意に満ちた目を。

天宮の涙を。



覚えているのは、俺しかいないのか。



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