さよならの魔法



渦巻くのは、複雑に絡み合った想い。


やるせなさと。

虚しさと。

そして、苛立ちと。


止まらないイライラの理由は、自分自身でも分からないままだった。




「紺野ー、どこ見てんだよー!ちゃんと話に混ざれー!!」

「………うるさい!耳元で騒ぐなよ。」

「何、耳元で囁く方がいいのー?」

「気持ち悪っ!!お前は、矢田2号か………。」


しょうがないだろ。

大目に見てくれよ。


気になるんだ。

どうしたって、気になるんだ。



天宮、酒勧められてるし。

しかも、松島に勧められて飲んでるし。


会話は交わしながらも、俺の意識は相変わらず後方に向いたまま。



笑ってた。

あの天宮が笑っていた。


楽しそうに笑ってる。

弾んだ様子で、みんなと話をしてる。


そこに、涙はなかった。

あの日の様に、静かに泣いている姿は存在しなかった。




最後に会った日を思い出す。

卒業したあの日を思い出す。


あの日、天宮は泣いていた。

声を出さずに、前だけを真っ直ぐ見つめて、天宮は静かに泣いていた。


忘れられなかったんだ。

俺は、そんな天宮のことが。

天宮の涙が。



俺は、天宮に幸せになって欲しいと思っていた。

天宮に笑っていて欲しいと、そう思っていた。


もう、あんな風に泣くことがない様にと。

あんな悲しい涙を流すことがない様にと。



それなのに、嬉しいはずのその笑顔を嬉しく感じられない。

それどころか、寂しくさえ感じてしまうなんて。


あの子の笑顔を望んでいたはずなのに。

この場にいる誰よりも、あの子に笑顔が戻ることを願っていたはずだったのに。









結局、俺と天宮が話をすることはなかった。

一緒に酒を酌み交わすこともなく、天宮はみんなよりも先に帰ってしまった。


俺の想いを知らないままで。



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