さよならの魔法



叶わないと思っていた、密かな夢。

密かな願い。




「天宮、少しだけ………、少しだけ俺に時間をくれない?」


彼の言葉が、私の願いを叶えてくれた。

最後の願いを叶えてくれた。



「………うん。」


少しだけ、夢を見てもいい?

ほんのちょっとの時間だけでいいから、紺野くんを私にください。


あなたの時間を、あなたの隣を歩ける時間を、私にください。








2人で並んで、夜道を歩く。

私の30センチ前を歩く、紺野くんの背中を見つめる。


重なる。

思い出す。


5年前の彼と、今の彼。



私が覚えているのは、まだ中学生だった頃の彼だ。


懐かしい。

あの頃の紺野くんは、真っ黒な学ランを着ていた。



当たり前のことだけれど、5年経った今の彼は学ランなんて着ていない。

私が追う彼の背中は、ダウンジャケットに包まれたもの。


あの頃よりも、たくましくなった体。

男としてはそれほど高いとは言えない身長だけど、それでも私よりもずっと高い背。


細いけれど、長い足。



紺野くんらしさを感じるのは、こんな時だ。





「天宮、足………平気?」

「え?」

「ブーツってさ、長い間履いてると疲れない?」


やっぱり変わってない。

私が好きだった、あの頃のまま。


紺野くんは、こんな私にでも優しい。



私のことなんて、気にかけてくれなくてもいいのに。


ブーツで歩くことには、それなりに慣れてる。

千夏ちゃんや千佳ちゃんと遊びに行く時は、ヒールのある物を選ぶことが多いし。


紺野くんの変わらない優しさが嬉しくて、頬もついつい緩む。



「ふふふっ、………平気だよ。」

「男物のブーツだって、ずっと履いてると疲れるからさ。ちょっと心配になっただけ。」

「あ、ありがとう………紺野くん。」

「いいえ、どういたしまして。」



紺野くんに連れられてやって来たのは、線路脇にある児童公園。

幼い頃に両親と来たことのある、知っている場所だった。




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