さよならの魔法
『惹かれるほど、遠く離れていく』
side・ユウキ







初めて会ったのは、12歳の春。

入学したばかりの中学で、同じクラスになった。


接点なんて、同じクラスだということ以外にはなかった。

共通の友人もいなかった。


話したことがあるのは、数えればきっと片手で足りる回数。



穏やかな子だった。

派手で目立つタイプではなく、大人しい女の子だった。


クラスの中でこれといって何か目立つことはなかったし、嫌われているということもなかったんだ。



例えるなら、凪いだ海の様な人。

どこまでも続く、穏やかな広い海を思わせる人。


年齢よりもずっと落ち着いていて、同じ中学生には思えなかった気がする。

ガキっぽい自分とは、対極の位置にある女の子。



彼女が追い詰められていくのは、2年に進級してから。




あの子から、表情が消えていく。

はっきりと見てとれるのは、怯えた表情のみ。


ふとした瞬間にわずかに見えていた鮮やかなものが、消えていくのはあっという間のこと。



俺は、そんなあの子を見ていた。

見ているだけだった。


助けてあげたかったのに。

残酷な魔の手から、あの子を救い出してあげたかったのに。


見ていることしか出来ない自分が、嫌いだった。

周りのクラスメイトと同じ行動しか取れない自分のことが、大嫌いだった。




いつも、俺は心のどこかで気にしていた。


いじめられていた、あの子のことを。

救えなかった、あの子のこと。


その理由はーーー………









闇に包まれた、俺のふるさと。

俺と天宮が生まれ育った町を、2人で歩く。


ほんの少し、俺が先を歩いて。

俺の後ろを、天宮が控えめな態度で付いてくる。



そういえば、初めてかもしれない。

天宮と、2人だけでこうして歩くのは。


俺と天宮は、特別に親しい関係という訳ではなかった。

関わりが少ない、クラスメイトの1人だった。



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