さよならの魔法



一緒に帰ったことなんてない。

隣を歩いたことさえ、きっとなかったのだろう。


俺よりも少し後ろを歩く天宮に気を配りながら、歩くスピードをいつもよりも緩めて歩いた。



「天宮、足………平気?」

「え?」

「ブーツってさ、長い間履いてると疲れない?」


そう尋ねたのは、天宮の履くブーツが高いヒールだったから。


振り返った先にいる天宮。

ある意味、卒業したあの日から、 ずっと会いたかった女の子。


当然だけど、そこには中学生だった頃の彼女はいない。

俺が知ってる、あの天宮の姿はない。



後ろから響く、小気味のいい足音。

短いスカートから見える、スラリと伸びた足。

防寒していても寒いのか、たまに手を擦り合わせて歩いている。


あの天宮とは、とても同一人物とは思えない。

垢抜けた女の子が、そこにはいる。




脳を掠めるのは、5年前の天宮の影。


あの頃の天宮は、こんなに短いスカートを穿いたりしていなかった。

そもそも、俺は天宮の私服すら見たことがないけれど。


紺色のセーラー服に、真っ白なスカーフ。

ヒダが広がる、プリーツスカート。



あまりにも違い過ぎる2つの影が、俺の脳を混乱させる。

記憶の中の天宮と、後ろを歩く天宮とが一致しない。


しかし、聞こえてくる声だけは同じもの。

あの頃の天宮と同じ、穏やかな声。


何故か心が落ち着く、秋風の様なその声が、俺の鼓膜を震動させた。



「ふふふっ、………平気だよ。」

「男物のブーツだって、ずっと履いてると疲れるからさ。ちょっと心配になっただけ。」

「あ、ありがとう………紺野くん。」

「いいえ、どういたしまして。」


天宮が笑って答える。

俺の言葉に、穏やかに微かに笑みを浮かべながら言葉を返してくれる。


その様は、俺に大きな衝撃を与えた。



(笑ってる………、天宮が笑ってる!)


笑顔ならば、先ほど遠目に見たことはある。

それでも、この笑顔の威力はすごい。



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