さよならの魔法
『旅立ちの時』
side・ハル







「紺野くん、あのね、私………紺野くんのこと、好きだった。」


やっと言えた。

6年もの歳月を経て、やっと言えたんだ。


この気持ちを。

くすぶるだけで持て余していた、幼い頃の初恋を。


ここまで来るのに、長い時間がかかってしまった。



これで、やっと終われる。

終わらせることが出来る。


ほんとはね、あの日、あのバレンタインデーの日に全てが終わるはずだった。



分かってたんだ。

この恋が、叶うものではないことを。



他に付き合っている人がいる時点で、可能性なんてなかった。

私と紺野くんの未来なんて、存在していなかったのだ。


報われないことを分かっていて、私はそれでもあのチョコレートを作ることを決めていた。



終わらせたかった。

先の見えない恋に、可能性がない恋に終止符を打ちたかった。


あのチョコレートは、恋を終わらせる為に準備したものだったのだから。





ああ、これで解放されたのだろうか。

私は、過去から解き放たれたのだろうか。


縛られ続けていたトラウマから。

忘れられずに引きずっていた、初恋から。


本当の意味で、私はやっとさよなら出来るんだね。









紺野くんとの短いひとときを過ごした翌日、私は生まれ育った小さな町の駅にいた。

古びた駅のホームで、東京へと向かう電車を待っていた。


ヒューーー………


長く延びた線路に沿う様に、風が吹き抜けていく。

山から下りてきた風は、冬の色が濃く、冷たい。



「………っくしゅん!」


ああ、鼻がムズムズする。

風邪でも引いたかな?


こっちに戻ってきてからは、外に出る機会が多かった。


同窓会に出て、同窓会の帰りには、紺野くんと寄り道もした。

真夜中に外にいたせいで、体調を崩してしまったのかもしれない。



(おかしいな………。)


昔は、このくらいの寒さなんかで風邪なんて引かなかった。



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