さよならの魔法



体が強い方という訳ではなかったけれど、寒さには強いものだとばかり思っていた。

それは、思い込みでしかなかったということか。


すっかり都会での生活に慣れて、寒さへの耐性が弱くなってしまったのだろう。



慣れって、本当に怖いものだ。


昔はどうってことはなかった寒さでも、今の自分には堪える。

息が凍ってしまいそうな中を歩いて通学していたのが、嘘みたいだ。



東京は暖かい。

人と人との繋がりは薄くて、社会は冷たいかもしれないけれど、気候だけは暖かいのだと実感出来てしまう。


暖かい気候に慣れてしまった私の体は、すっかり寒さに弱くなってしまったみたいだ。





見上げれば、青い空。

冬独特の雪雲さえない、真っ青な空が広がっている。


濃いブルーから、薄いブルーへ。

グラデーションで濃淡を付けた空が、私の世界を彩る。



薄いブルー。

まるで、紺野くんそのものみたいな、そんな空。


あの頃の私も、今の私も、嫌いになんてなれない色。

ずっとずっと、大好きな色。



雲1つない空は、私の心を映し出している様だった。


晴れ晴れとしていて、何の曇りもない。

憂いもない。


どこまでも広がり、果てのない空。

すっきりとした、青い空。



何だか、体が軽かった。


憑き物が取れたみたいに、心も体も軽かった。




「さよなら、紺野くん………。」


目を閉じて、思い浮かべる。


大好きな人の姿を。

忘れられない人の面影を。



学ランを着た彼。

昨日の、私服姿の彼。


もう1度口にしたのは、別れの言葉。

大好きな人に向けた、最後の言葉。




6年前。


この町を離れた時は、1人じゃなかった。

隣にはお父さんがいてくれて、私を気遣ってくれていた。



不仲の両親が離婚することで、私は新天地への切符を手に入れたのだ。


あの日のことは、今でもよく覚えている。

今、思えば、あの日が私の人生のターニングポイントだったんだ。



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