さよならの魔法
『恋慕』
side・ユウキ







「さよなら、紺野くん………。」


耳に残る、天宮の声。

ずっと聞きたかった人の声。


彼女らしい優しげな声音は沈んで、ひどく寂しげに聞こえた。



さよならーーー………


俺に向けられたのは、過去の俺に対する告白と別れの言葉。

今の俺に対するものではなく、昔の俺に対してのもの。


恋を自覚した直後に突き付けられたのは、残酷な現実だった。




好きなんだよ。

好きなのに。


こんなにも天宮のことが好きだったのだと、ようやく気が付けたのに。



自分の気持ちを知ったところで、君にはもう会うことさえ出来ない。

この手が、君を捕まえることはない。


周りの人間を傷付けてきた罰か。

今になって、その罰が俺に当たったのだろうか。




伝えたかった言葉は、ありがとうという言葉だけじゃなかった。


天宮、君が好きだ。

俺、天宮のことが好きなんだ。


中学生だった頃の天宮も、今の天宮も、どっちの天宮のことも好きなんだよ。



昔とか、今とか関係ない。

君の全てが好きだ。


好きなんだ。


伝えられずに散っていった言葉が、俺の中で降り積もっていく。

消えずに降り積もって、切なさをともなって全身を駆け巡る。



みっともないな、俺は。

未練がましいなって、自分でも思う。


男だろ。

しっかりしろよ。


何度も自分を叱咤するけれど、それでも全然立ち直れなかった。



目を閉じれば、残像として残る。

瞼の裏に映る君の姿。


忘れたくても、忘れられない。

晴れない心を隠せないまま、アパートへ帰る為に手当たり次第に、小さなトランクに服を詰め込んでいく。



翌日、そんな傷心の俺を訪ねてきたのは、茜だった。










「ユウキー!」


母さんの声が、そう広くない一軒家にこだまする。


母さんの明るい声を聞くのも、今日が最後だ。

明日からは、また1人きりの生活に戻ってしまう。



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