さよならの魔法



茜の口から聞く、茜の過ごした5年間。


離れていた間も、茜は俺のことを想っていた。

俺のことを待っていてくれた。



でも、俺は、その気持ちには応えられない。



俺は、茜のことを見ていない。

もう、茜のことを見てはいないのだ。


ふとよぎるあの子を想って、言葉を紡いだ。



「俺の中で、茜とのことは………もう過去のことなんだよ。茜とやり直すことなんて、考えられない。」


答えは、始めから決まっていた。

問われるまでもなく、決まっていた。


他に好きな子がいるのに、茜と付き合うことなんて出来ない。

自分に嘘をついてまで、茜を選ぶことなんて出来ない。


そんな器用な人間なんかじゃないんだ、俺は。



俺が好きなのは、天宮だ。



教室の端で、いつも本を読んでいた女の子。

先生に褒められるほど、絵が上手かった女の子。


姿形は大人びて成長していても、天宮はあの頃のままだった。

すれることなく、中学生だったあの頃のままでいてくれた。


俺の心を掴んで離さないのは、天宮だけ。

あの頃も、そして今も。




「俺、他に好きな子がいるから。その子のことが、すごく好きだから………茜とはやり直せない。」


ごめんなと最後に一言そう付け加えて、茜を見る。


茜とこうして2人きりで会うのも、きっと今日が最後になるだろう。

もうこうして話すことも、この先はないだろう。



「ふふふっ、ユウキは正直だね。そんなとこも、好きなんだけど。」


そう言って、茜が立ち上がる。


茜の向こうに、青い空が見えた。

よく晴れた、スカイブルーの色が見えた。



「バイバイ、ユウキ。………しつこくして、ごめんね。」

「茜………。」

「今度、もし会える時があったら、その時は笑っててね!」


悲しいくらいの青に、茜の後ろ姿が吸い込まれていく。


その青が眩しくて、俺は思わず目を細めた。



< 464 / 499 >

この作品をシェア

pagetop