さよならの魔法
『解放』
side・ハル







長い時間、電車に乗って、窓の外を眺めていた。

流れていく景色を、ずっと眺めていた。


田んぼや畑ばかりの風景が、だんだんと変わっていく。

ビルや大きな看板が目立つ、都会的な街並みへと少しずつ変化していく。





思えば、いつも違った気持ちで、この景色を眺めていた。



初めてこの景色を見たのは、15歳の時。

両親が離婚した直後のことだった。


しがらみが被いあの小さな町を抜け出せる喜びと、好きな人と離れなければならない悲しみと、相反する複雑な気持ちに揺られながら、この景色を見つめていたんだ。



もう2度と、この景色を見ることはないだろう。

この町に戻ることはないだろうと、そう思っていたから。


故郷から離れていくほど、目に焼き付けておこうと思ったのをよく覚えている。




2度目は、20歳。


5年ぶりに、ふるさとに戻った時。

ほんの数日前のことだ。



戻ることはないと心に決めていた場所に戻ることになって、私の表情はとても暗かったと思う。

都会的な街並みが田舎の農村風景に変わっていくのを見て、心が沈んで落ちていくのが分かった。



何か、言われてしまうのではないか。

来なくても良かったのにと、歓迎されないのではないか。


彼は、紺野くんは、私が来ることを望まないのではないか。



そう考えると、不安で堪らなかった。



それほど不安を感じていた私だけれど、今はそんな不安を感じてはいない。


行かなくて良かったとも、思っていない。

後悔もない。



あの時、紺野くんが言ってくれたから。


ありがとうって、そう言ってくれたから。



紺野くんは、律儀な人だ。


6年前のバレンタイデーのチョコレートのことなんて、忘れられていてもおかしくない。

付き合っていた彼女でもない、ただのクラスメイトからのチョコレートなんて、忘れられていて当たり前なのに。



< 465 / 499 >

この作品をシェア

pagetop