さよならの魔法
『日常』
side・ユウキ







「俺の中で、茜とのことは………もう過去のことなんだよ。茜とやり直すことなんて、考えられない。」


茜に、はっきりと別れを告げた。


思い込みでもなく、勘違いでもなく、やっぱり茜は俺のことを見ていた。

5年経った今でも、変わらずに。



「俺、他に好きな子がいるから。その子のことが、すごく好きだから………茜とはやり直せない。」


この気持ちに気付いてしまった今、他の女のことなんて目に入らない。

どうして、隣に別の女を置かなければならないのか。


隣にいたいのは、あの子だけ。

恋い焦がれる、君だけだ。




人を好きになることって、素晴らしい。


予想以上の力を引き出したりする。

誰かを恋い慕う、温かい気持ちを教えてくれたりもする。



だけど、それだけではない。


切なさや寂しさも、この身にもたらす。

1人でいることの悲しさも、同時に教えてくれるもの。



それでも、俺は今、恋をしている。

悲しい恋を知ってしまった。


この気持ちを消すことは、当分の間、無理に違いない。










成人式の2日後。

茜に別れを告げた翌日、俺が自分が住む街へと戻った。


通っている大学の傍に借りてもらった、ワンルームのアパート。

今の俺の、小さな城だ。



当たり前のことだけれど、世界は止まってなんかくれない。

世界も時間も止まってくれず、目まぐるしいスピードでぐんぐん動き続ける。


俺が失恋したということは、この世界にとってはちっぽけなこと。

取るに足らない、小さなことなのだ。


へこんだ俺を置き去りにして、今日も世界は回っていく。

時間は進み続ける。



おかしいよな。


ほんの数日前までは、その世界の中で生きていたはずなのに。

同じスピードで歩いていたはずだったのに、今はもう違う気がするんだ。



俺だけが立ち止まってる。

俺1人だけが取り残されている。


そんな気分。



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