さよならの魔法



全てが上手くまとまることなんて、そうそうない。

みんながみんな、幸せになれる選択肢はない。


今の、この関係においては。



「う、嘘………!?」

「嘘じゃないよ。」

「嘘ーっ、やったぁ!!」


増渕が感激のあまり、俺の体に飛び付いてくる。

ピョンピョンと跳ねる増渕は、小さいウサギみたいだ。


嬉しそうに跳び跳ねて、俺にしがみ付く。



こんなところも、可愛いって思う。

女の子っぽいなと、そう思う。


苦笑いの俺。



「嘘って、何だよ。告白してきたの、増渕の方だろ?」

「だ、だって、だって、OKしてもらえるなんて思ってなかったんだもん!」


増渕は増渕で、不安に思うことも多かったのだろう。

涙で頬を濡らす増渕が、興奮した様子でそう言う。


俺は微かに震えるその体を、優しくそっと抱き締めた。




(柔らかい………。)


筋肉質な男の体とは違う、独特の柔らかさを持つ体。


増渕は、運動部。

女子の中では筋肉質な体なのだろうけれど、それでもやっぱり女の子だ。


ほのかに、いい匂いがする。



「夢みたい………。」

「ぷっ、何だよ、それ。」

「紺野とこうしていられるなんて、夢の中でしかなかったんだもん。」


俺の腕の中で、増渕が呟く。



「夢じゃないし。」

「そうだね!夢なんかじゃないね。」









梅雨空の灰色の空の下。

2人きりの屋上で、初めて告白をされた。


紺野 有樹、13歳。

俺に、初めて彼女という存在が出来た日。




初めてのことに浮かれていて、俺は忘れていたんだ。


俺がいなくなった後の教室。

あの小さな箱の中で行われていた、陰湿な行為を。

残酷な行為を。



もうすぐそこまで、夏休みが迫っていた。



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