偽りの婚約者

急に千夏は抱かれるまま抵抗しなくなった。
千夏の頬は涙で濡れている。
拘束を解き千夏への想いが伝わるように何度も口づけをし頬に流れた涙を手で拭った。


千夏はフラフラと玄関に向かい歩き始めた。



「千夏っ」



靴を履いたところで追いつき後ろから抱き止めた。




「どこに行く？」



「帰ります。私達、別れるんですよね。
だったら早くここから出て行かないと……だから離して下さい」

さっき怒りに任せて言ってしまった一言を後悔した。



「ダメだ！！行くなっ。
別れるなんて嘘だ。怒りに任せて言っちまっただけだ」



「嘘……なんですか？」




「とりあえず靴を脱いで中に戻ってくれ」




「千夏っ、頼む」





部屋に戻った千夏をギュウッと抱きしめた。


「ごめん。やり過ぎた」


また泣き出してしまった千夏を腕に閉じ込めてあやすように背中をさすっているうちに、落ち着いたようだった。