HELP
旅は道連れ世は情け

一号車

「はあ」
 と胡桃(くるみ)が溜め息をついたと同時に、浅草発特急りょうもう号発車のアナウンスが車内に響いた。
「今から終着駅の赤城まで軽やかな旅とビジネスライクを快適に運ぶために最善を尽くすわけでありますが、たまに揺れます。揺れないように努力しているつもりです。が、たまに揺れます。それは仕方のないことなのです。車体は複雑な部品が絡み合い、レールは英知を極めた人間が毎日毎夜点検しているわけですが、いかんせん完璧ではないのです。しかし心配はいりません。多少の欠損は車体にプログラムされており、サッカーでいう司令塔のポジションである管制塔が常に監視しております。分割されたカメラが常に車体と路線図を監視し、複雑な現代の人間模様を交錯させ、偶然と必然の間を彷徨います。そう、男と女。絡み、離れ、または寄り添い、邪見にする。さらには私がさぼっていないか無線が入ります。無線?そこは古典的です。エコです。電気代は安く、ワンタッチ。それでは、特急りょうもう号発車致します。おっと、最後にもう一つ。りょうもう号は愛の箱です。人は愛を求めて生きているのです」
< 1 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop