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三号車

 恭一が呼んでいる本の題名は、『明日への階段』だった。ありきたりな題だ、と鈴音は思った。
「ありきたりだと思ってるんだろ」
 恭一が鈴音の心を読み取ったように応えた。この読み取り技術に鈴音は惚れた、と言っても過言ではない。彼女は言葉で考えを主張しないし、察してくれることを相手に望んでいる。傲慢に思えるだろうが、そうやって生き、種々雑多な男と交際を重ねてきた。人生は混濁を極め、男は様変わりし、ようやく満足のいく男と出会った。財を所持し、どこか掴みどころがなく、おそらく想像でしかないが、多くの女性を抱いてきたことだろう。雰囲気の節々からそれらが伝わってくる。
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