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 「俺、鳩葉ちゃんと結婚したいんだ。でも、鳩葉ちゃんは音楽を続けたいと思う。だから、俺が就職して鳩葉ちゃんを支えていこうと思う」
「だから、髪を切ったの?」
 鳩葉は言葉にならない声で言った。
 うん、と青葉は頷き、「気にしないで、就職しても音楽は続けられるから。幸せになろう」
 鳩葉は嬉しかった。本当に自分のことを考えてくれているのだと。フウ、フウ、と言っていた自分が恥ずかしくなる。彼女は青葉に歩み寄り、その後の展開を待った。
「幸せになろう。プライベートでも音楽でも」
 青葉の唇が近づいてくる。周りの乗客から、「まじ、ここで、うそだろ」という驚きの声が聞こえる。でも、青葉の唇が消えた瞬間、フウっと周囲の雑音が、鳩葉の耳から掻き消えた。そこには唇の重なり合う音だけが、こだましていた。
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