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過去は旅につきもの

一号車

 「女性にビンタ二回って貴重な体験だと思うんです」
 赤くなった左頬をさすりながら花丸は真剣な眼差しを胡桃に向けた。既に、りょうもう号は北千住駅を発ち終着駅である赤城に向けて加速し始めた。
「貴重というより情けない」
 胡桃は断定した。
「男と女が触れるって貴重ですよ」
 花丸は尚も食い下がる。さらにに胡桃のパーソナルスペースに徐々に侵入し、距離感が非常に近い。
「少し、距離をとろうよ。密着って心許した人にしか認めてないし」
 しっ、しっ、と手のひらを小刻みに動かし胡桃は払いのけた。
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