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 そんな人達を少しでも癒し、こりをほぐしてくれれば、とセラピストである胡桃は、匂い、を武器に独り立ちした。
 胡桃は五感の中でも嗅覚に固執する。匂いには敏感だし、匂いに堕落する異性を毛嫌いする。たしかに人によって匂いの趣向は様々だ。六十億人から七十億人という世界人口の増加は種々雑多な匂いをもたらす。それについて研究するのも、一つの学問としては飽きもせず、時間を忘れ没頭することも可能だが、しかし今が時代は資本主義という見えざる檻がある。衣食住という不文律を謳歌するには、仕事、をしなければならない。研究費捻出で頭を悩ますより、 好きな仕事に就いて、自分一人で生計を立てたい。自分の力で全てを成し遂げたい。かつて職場の先輩が、
「胡桃ちゃんはね、職人気質だね、女なのに」
 煙草をふかしながらいった。
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