最後に、恋人。



「・・・・・オレに由紀を説得なんて出来るわけないのにな。 なんで小百合はオレに頼んだんだろう」




オレこそが、最も由紀を説得出来ない人間だろうに。




「小百合の考えそうな事じゃん。 小百合はさ、孝之がワタシに引け目を感じてるだろうって思ってるからさ、孝之なら頼み事飲んでくれると思ったんだよ。 ワタシに近い友達に病気の事バラして説得促したら、ワタシがキレるって事も分かってただろうし」




由紀は、何もかもを見透かしたかの様に笑った。





「・・・・なんで小百合には病気の事話したの??」





「・・・・・小百合がウチに来た時、ゴミ箱に入ってた薬の殻見られちゃって・・・・」





小百合は薬剤師をしていた。




由紀は小百合に気付かれなければ、誰にも言わずに1人で死のうと思ってたんだ。






「・・・・・ねぇ由紀、由紀はオレの事・・・・怒ってないの??」




怒ってないハズがない。




でも、由紀はオレに恨みを言う事もなく、自分が死んでしまう事さえ笑いながら話す。





由紀は由紀のまま変わっていないのに、何を考えているのか分からない。





「・・・・・ショックだったし、泣いたし、怒ったし・・・・。 でも、病気になって、また孝之に会って思ったんだ。 孝之の選択は正しかったんだって。 だってワタシは病気になる運命だったんだから。 ・・・・孝之、幸せそうで良かった。 コドモ、かわいい??」





「・・・・・うん」





もし、由紀がオレと出会わずに他の誰かと結婚していたら





子供を産んでいたら





由紀は手術を受けて生きようとしていたはずだ。





千沙との結婚に後悔などない。




娘もかわいい。






でも、もしあの時由紀を選んでいたら






由紀はオレの為に生きようとしてくれただろうか。







由紀と結婚していたら、オレは後悔していただろうか。
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