初恋
景の問いかけに答えられなかった。
言葉に詰まって俯いていると、ふっと景が微笑んだのを感じた。
顔を上げると、辛そうに微笑む景が私の頭をくしゃっと撫でた。

「沙羅を追い詰めるつもりはないんだ。お前に無理をさせたくないのも本心だ。でも、田宮に2度もお前を奪われるのかと思うと焦ってしまった。こんな事して悪かったな」

最後に景は私の頭をぽんぽんと軽く叩くと立ち上がった。

「遅くなったし送るよ。明日も仕事だろ?」
「・・・うん」

気のない返事をした私を景はからかう様に覗き込んだ。

「なんなら本当に泊まってくか?俺は大歓迎だけど?」
「かっ!帰るわよ!」

慌てて立ち上がりコートを着込んだ。
そしてそのまま景に家まで送ってもらった。


「じゃあな、沙羅。明日寝坊するなよ」
「しないわよ。子供じゃあるまいし」
「深いキスの仕方も知らない沙羅は充分お子様だと思うが?」
「景っ!なっ・・・なんて事いうのよ!!」
「ははっ、おやすみ。おこちゃまの沙羅」
「おやすみ!嫌味大魔王の景!!ついでに送ってくれてありがとっ!」
「ついでに礼を言うなよ」

景は苦笑しながら手をひらひらと振って来た道を帰っていった。
私は自分の部屋のベットに倒れこむと、どうしようもない自己嫌悪に陥った。

また景の優しさに甘えてしまった。
自分で決めたことなのに、いざ景を受け入れようとして心が拒否してた。
何も悪くないのに、景は自分を悪者にして私が傷つかないようにしてくれた。
最後に軽口を叩いたのも私を元気づけるため。
「気にするなよ」っていう景なりの気遣いだ。

「私は景に何を返せる?」

答えの出ない問いかけに、考えるのを諦めて私は眼を閉じた。

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