ジンゴロウ~隻腕の大工
しかしそれも永くは続かず正利はまもなく病に犯されこの世を去ってしまうのであった                               綾江は刀禰松とふたりで暮らすにもお金がなくやむをえず兄を頼りに飛騨高山の実家へと身を寄せるため刀禰松を連れて向かった                                               飛騨高山へは徒歩で辿り着いた。この時代は馬車や籠などでの移動手段はお金がかかるため、一介のお奉行や商人でもない限りまず庶民には厳しいものだからだ                                                         実家の手前に差し掛かるあぜ道へと着くと綾江はおぶっていた刀禰松を降ろし両肩に手を置きながら向き合うとこう言った                                                      
   (もうちぃーとであにさまのとこ着くからね。ひだるくないか?(腹が減ってないかの意))                           刀禰松は綾江に向かいにこりと笑うと「うん。どだい平気だよ。でもおっかぁずっと厠に(トイレ)行ってないけど大丈夫?」と心配そうに綾江を見つめた                                        綾江は、一瞬はっとした表情になった。京都から飛騨高山までは幾度も山を越えて歩くため大人の自分は耐えれどまだ五歳にも満たない刀禰松には辛いものがあった                                   そのためか綾江は食べるものから全て刀禰松が満足できるように我が身構わず与えていたため厠に行く事すら忘れていたのだった
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