・*不器用な2人*・(2)
駅前でめぐちゃんたちと別れてから、梶君と肩を並べた。

通い慣れた通学路を、手も繋がず、繋ごうともせず、適当な距離を空けて歩く。

「いっ君と、知り合いなの?」

梶君の足音に自分の足音をかぶせながら訊ねてみると、彼はすぐに「うん」と言った。

「去年の夏に、少しだけ話したんだけど。
見かけによらず優しくて礼儀正しくて、意外と普通だった」

どこか遠くを見るように、梶君は目を細める。

「良い奴じゃなかったら、あんなにたくさんの人に囲まれたりはしない」

そう言った梶君がフッと目を伏せるのが、どうしても私には苦しかった。

彼の手を躊躇しながら握ってみると、なんだか私まで気分が沈んでいく。

瞼の裏に、私が見たこともないような記憶が広がっていくような感覚。

それは、梶君と手を繋いだ時にだけ起こる魔法のようなものだった。

「すごく寂しいんだよ。いっ君は。
俺と一緒で、誰かが傍にいないと訳が分からなくなるんだ」

掠れた声で呟いて、梶君は私を見下ろす。

「間違ったことをしていても、皆に認めてもらいたいなんて思うんだよ。
何も持っていないような無価値な自分でも、大勢に囲まれたいなんて身分不相応に思ったりする」

顔をクシャリと歪めた梶君は、2年前の春に会った時と似ていた。

「今は、私が隣りにいるよ?」

私がそう言うと、梶君は「そうだね」と力ない返答をした。

分かれ道で別れる際、私たちは久し振りに唇を合わせた。

何の不自由もないのに、何の不満もないはずなのに、どうして私たちは満たされていないのかと、少しだけ薄暗い気持ちになった。

――繰り返すよ。

誰の声かも分からない声が耳を掠め、風の中に消えて行った。
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