・*不器用な2人*・(2)
トロイメライが校内放送で流れ始めると、制服に着替えた部員たちはゾロゾロと体育館から出て行った。

お疲れ様!という声を互いに掛け合い、仲の良さそうな部員同士で固まり、楽しそうに笑い合う。それは何処にでもある光景で、けれど、少し離れた場所には大きな違和感が残されてしまっていた。

チェック表を持った芳野君が、城島君と話をしている。

険しい表情の芳野君に何かを言われる度に、城島君は何度も頷いていた。

2年の中では最後に体育館を出ようとしていたいっ君に、芳野君がパッと声をかけた。

「これの集計、抜き打ちでやるから。
いっ君も相当チェック多いし、態度改めた方が良いよ、絶対」

いっ君は面倒くさそうに振り返り、マスクで顔を覆い直していた。

「そういうのを言うてるの。
お前のコンプレックスとか知らないけど、3年生と話す時もマスクしとるだろ。
それ、絶対に印象悪いから。やめなよ」

芳野君は少しだけ苛立ったように言い、城島君へとチェック表を押しつけた。

彼はいっ君へと近づいて行き、自分より少し背の高い彼を見上げる。

いっ君は指摘された通りマスクを取り、長いカーディガンの袖で鼻から下を覆った。

「大勢の前でカートンカーストなんて、2度とやりたくないっしょ」

芳野君の言葉にいっ君は小さく頷いて、またすぐにマスクをつけ直した。

彼は会釈を少しもせずにパッと身を翻すと、体育館から出て行った。

少しの時間差を置いて、芳野君も体育館を後にした。

帰り際に彼は城島君を振り返り、「お疲れさん!」と明るく敬礼をした。

城島君も直ぐに敬礼を返し、「お疲れ様です!」といつも通り明るい声で言う。

体育館の扉が閉められてからも、彼はずっと扉に向かって敬礼をしていた。
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