悪魔的に双子。
わたしは壁画制作に参加するため、自分の教室を離れて、三年生の教室が並ぶところにやって来た。
移動する生徒たちの少しテンション高めのおしゃべりに、自然とわたしの気分も上向きになる。
「あれ、青だ」
聞き慣れた声に嫌な予感がして、恐る恐る振り返ると、案の定、人形じみた美少女が眠そうな顔をして立っていた。
「唯流……あんたも壁画なの?」
確認するまでもなく、ここ、3年2組の教室の前にいる時点でそうなのだが、確かめずにはいられなかった。
出来れば否と言ってほしい。
しかし、唯流は眠そうな顔のままこくりとうなづいた。
「うん」
声だけでうなづきながら唯流の細い首がぐらりと傾く。
「………唯流、なんで眠たそうなの」
「……昨日、夜遅くまで勉強してたから」
「うそだ」
「……うそじゃないもん」
腹が立って少し目が覚めたらしい唯流はわたしをキッと睨んだ。
唯流が自ら勉強するなんて天変地異が起きてもあり得ないと思うのだが、本人に嘘をついている様子はない。
「ちょっと、あんたら、ドアの前で邪魔だから」
後ろで呆れたような声が聞こえて、わたしは慌てて横によけた。
声の方を見ると苛立たしそうにポニーテールの先輩が立っていた。
「ご、ごめんなさいっ」
わたしがぺこりと頭を下げると、
「場所は考えなよ」
と先輩は先輩らしく苦言を残して教室に入ろうとなさった。
が、……再び眠たいスイッチが入ったらしい唯流は首をぐらぐらさせていっこうに退く気配がない。
我が妹ながら恐ろしい。
この状況で立ったまま仮眠をとれるとは。
「君、あのね……後ろつっかえてる」
ポニーテールの先輩は静かに言った。
しかし、痺れを切らしたらしく、はたから見たら絶賛無視を行使している唯流の髪をくいっと引っ張った。
「痛っ、なに、こいつ」
起きたと思ったら悪態をつく唯流を引っ張ってわたしはそそくさと教室の中に引っこんだ。
「ご、ごめんなさい、先輩っ」
「青っ、こいつ、唯流の髪引っ張ったっ」
唯流の叫びに先輩が眉を釣り上げる。
「はぁ⁉あんたがどけっつってもどかないからでしょうっ」
ごもっともです。
「ちょ、茉莉花、もういいじゃん、騒ぐほどのことじゃないよ。」
ポニーテールの先輩の友達らしき人が止めに入ってくれた。
「こいつ唯流の髪引っ張ったの!許さないっ」
なおも騒ぐ唯流にわたしは頭が痛かった。
「あー、よしよし。でもあんたが悪い。でもよしよし。」
自分でもよくわからないことを言いながら唯流の頭をなでつつ、先輩方に頭を下げる。
「ごめんなさい、こいつ……この子ちょっと変な子だから、その常識というのは点に置いて非常に変な子なので……だから……許して……」
どんどん険しくなっていくように見える茉莉花?先輩の顔が怖くて、言葉の最後はしぼんでしまった。
「あー、いいの、いいの。せっかくの文化祭ウィークだよ、楽しくないと。ね、茉莉花」
友達らしき先輩がにっこり微笑んで、有無を言わさず茉莉花先輩を窓際の席へと引っ張っていった。
茉莉花先輩がふんっと鼻を鳴らす音が、遠ざかってもよく聞こえた。
「ふんっ、なによ、あいつ」
こちらのお嬢さんも負けてはいない。
「唯流知ってるもん、あいつ、真昼のファンだよ。唯流が真昼の妹だからってひがんでるの」
「へぇ」
……ん?
普通そういう『ファン』なるものは、憧れの的の家族に嫉妬したりするものなんだろうか。
誰かのファンになったことがないから、そのへんの心理というものはいまいちわからない。
とりあえず、唯流は(そして恐らくわたしも)あの気の強そうな先輩に嫌われたなってことくらいしか分からない。
唯流のお守りほど実入りのない仕事はない。
移動する生徒たちの少しテンション高めのおしゃべりに、自然とわたしの気分も上向きになる。
「あれ、青だ」
聞き慣れた声に嫌な予感がして、恐る恐る振り返ると、案の定、人形じみた美少女が眠そうな顔をして立っていた。
「唯流……あんたも壁画なの?」
確認するまでもなく、ここ、3年2組の教室の前にいる時点でそうなのだが、確かめずにはいられなかった。
出来れば否と言ってほしい。
しかし、唯流は眠そうな顔のままこくりとうなづいた。
「うん」
声だけでうなづきながら唯流の細い首がぐらりと傾く。
「………唯流、なんで眠たそうなの」
「……昨日、夜遅くまで勉強してたから」
「うそだ」
「……うそじゃないもん」
腹が立って少し目が覚めたらしい唯流はわたしをキッと睨んだ。
唯流が自ら勉強するなんて天変地異が起きてもあり得ないと思うのだが、本人に嘘をついている様子はない。
「ちょっと、あんたら、ドアの前で邪魔だから」
後ろで呆れたような声が聞こえて、わたしは慌てて横によけた。
声の方を見ると苛立たしそうにポニーテールの先輩が立っていた。
「ご、ごめんなさいっ」
わたしがぺこりと頭を下げると、
「場所は考えなよ」
と先輩は先輩らしく苦言を残して教室に入ろうとなさった。
が、……再び眠たいスイッチが入ったらしい唯流は首をぐらぐらさせていっこうに退く気配がない。
我が妹ながら恐ろしい。
この状況で立ったまま仮眠をとれるとは。
「君、あのね……後ろつっかえてる」
ポニーテールの先輩は静かに言った。
しかし、痺れを切らしたらしく、はたから見たら絶賛無視を行使している唯流の髪をくいっと引っ張った。
「痛っ、なに、こいつ」
起きたと思ったら悪態をつく唯流を引っ張ってわたしはそそくさと教室の中に引っこんだ。
「ご、ごめんなさい、先輩っ」
「青っ、こいつ、唯流の髪引っ張ったっ」
唯流の叫びに先輩が眉を釣り上げる。
「はぁ⁉あんたがどけっつってもどかないからでしょうっ」
ごもっともです。
「ちょ、茉莉花、もういいじゃん、騒ぐほどのことじゃないよ。」
ポニーテールの先輩の友達らしき人が止めに入ってくれた。
「こいつ唯流の髪引っ張ったの!許さないっ」
なおも騒ぐ唯流にわたしは頭が痛かった。
「あー、よしよし。でもあんたが悪い。でもよしよし。」
自分でもよくわからないことを言いながら唯流の頭をなでつつ、先輩方に頭を下げる。
「ごめんなさい、こいつ……この子ちょっと変な子だから、その常識というのは点に置いて非常に変な子なので……だから……許して……」
どんどん険しくなっていくように見える茉莉花?先輩の顔が怖くて、言葉の最後はしぼんでしまった。
「あー、いいの、いいの。せっかくの文化祭ウィークだよ、楽しくないと。ね、茉莉花」
友達らしき先輩がにっこり微笑んで、有無を言わさず茉莉花先輩を窓際の席へと引っ張っていった。
茉莉花先輩がふんっと鼻を鳴らす音が、遠ざかってもよく聞こえた。
「ふんっ、なによ、あいつ」
こちらのお嬢さんも負けてはいない。
「唯流知ってるもん、あいつ、真昼のファンだよ。唯流が真昼の妹だからってひがんでるの」
「へぇ」
……ん?
普通そういう『ファン』なるものは、憧れの的の家族に嫉妬したりするものなんだろうか。
誰かのファンになったことがないから、そのへんの心理というものはいまいちわからない。
とりあえず、唯流は(そして恐らくわたしも)あの気の強そうな先輩に嫌われたなってことくらいしか分からない。
唯流のお守りほど実入りのない仕事はない。