悪魔的に双子。

青のためなら死をも厭わない会

「……青さん、あと五分で一時間目も終わろうかという時に入って来ましたね」


「……はい」


「どうせならあと五分トイレにでも行って時間潰してたら良かったのに」


「ごもっともです」


休みの間にふらっと入って行けば良かったとクラスメイトの視線の渦に巻き込まれた後、嫌というほど後悔した。


指摘されるまでもない。


「で、なんで遅刻したんですかな?」


目の前で瞳をキラッキラさせている黒縁メガネの顔面に、わたしはジリジリと椅子ごと後ろへ下がった。


「別に、寝坊しただけだけど」


「ほんとぉにぃ?」


「……本当だよ、つかたとえ嘘でも蓮の好奇心を満たすようなネタはないと思うけど」


このお嬢さんは何を思ってそんな興味深げにわたしをジロジロ眺めまわしているのだろう。


蓮は胡散臭げな目を向けるわたしにニヤリと恐ろしい笑みを浮かべた。


「だって、青さんが遅刻するとかもう天変地異の域じゃないですか。」


いきなり規模がぶっとんだな。


「わたしだって寝坊くらいする。」


他の三人は見事なまでに当てにならないし。


蓮はわたしの痛くもない腹を探るように視線を上から下へとスライドさせた。


そしてやっぱりわたしの足元がやけに涼しいことに気づいた。


「つか、なんで青さん靴下なんですか?上履きは趣味にあわなくなったとか?」


確かにナメクジ入りの上履きは趣味に合わない。


「えっと、ね……これは…」


できれば気づいて欲しくなかったのだが、やはりそういうわけにもいかないらしい。


「ナメクジが…ね」


「青さんの天敵が?」


「わたしの上履きの中で迷子になってた」


それまでふざけていた蓮の顔が少し険しくなった。


「……ナメクジって、ひとりでに上履きの中で迷子になるもん?」


「そういうこともあるんじゃない?」


本当にそうであって欲しいと願いながらわたしは曖昧に答えた。


予想したとおり、やっぱり蓮は真昼と同じ方向に思考が辿り着いたようだ。


わたしの上履きに誰かがナメクジ入れた、と。


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