スイート・プロポーズ

「そうね…」


美琴の言葉に、上の空で返事を返す。

心ここにあらず、とは正にこの状態を言うのだろう。


「――聞いた方がいい?」

「……何を?」


会社前、信号待ちでふたりが立ち止まる。

美琴は少し悩んでから、口を開いた。


「お泊まり。どうだった?」

「――――ノーコメント」


信号が青に変わると、円花は早足で歩き出す。


「ちょっと――!」


慌てて美琴が追いかけると、円花は何とも言えない顔をしていた。

恋人の家に泊まってきた女の顔にしては、険しい。


「何? 何かあったの?」

「……その逆」

「逆? 逆って言うと……」


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