スイート・プロポーズ
「小宮、俺は軽い気持ちで好きだと言ったわけじゃない」

「それは、分かります。部長はそんな人じゃないから……」

でも、ひとつ確信したことがある。
夏目が今になって告白したのは、海外転勤の話が出たからだ。玉砕するつもりはないと言っていたが、転勤の話が出なければ先延ばしにしていたはず。

「別れるつもりでいたんですか? 転勤前に」

「そんなつもりはーー」

「じゃあ、遠距離を? 私には無理です。近くにいないのなら、気持ちは離れる」

今はまだ、好きだと自覚しただけ。
この恋は、今も浅い。深い愛には程遠く。

「私の気持ち、考えましたか? 私は、そんなに強くない」

仕事では、意地でも泣かない。プライベートだって、簡単に涙は見せてこなかった。
だから今も、泣きはしない。夏目をしっかりと、見据えている。
でもね、泣かないからと言って、強いわけじゃない。弱くないだけよ。

「帰ってください」

「…………分かった」

夏目はそのまま、何も言わず部屋を出て行く。玄関が閉まるのと同時に、円花は目頭を押さえる。
幸福の器には、やはり限界があるのかもしれない。今が、その限界なのかも。器の中身を減らさなければ、新しい幸福を注ぐことはできないのだから。

「…………泣きそう」

それなのに、抱きしめてくれる人はいない。

差し伸べられた手を取ったのは、紛れも無い自分。
その決断を後悔してはいない。
だが、予想できただろうか?
先に手を離したのが、手を差し伸べた方だとは。

「どうして、ひとりなのかしら……」

仕方ない。強気な性格じゃ、たとえ恋人の前であったとしても、涙を流せないのだから。

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