スイート・プロポーズ
約束は...
 選んだネクタイピンは、シルバー。青い天然石が飾りとしてあしらわれている。お値段はまぁ……1年に1度のお祝いなわけだし、誕生日って言うのは。
 うん、だから妥当な金額だと思う。

「ありがとう。……そう言えば、ネクタイピンを贈った場合の意味は」

「それはーー」

「あなたを見守ります、だったかな。……どうかしたか?」

 予想していたのとは違う答えに、円花はあはは……と乾いた笑いを返す。別の意味もあったとは。

「本当に、俺がアメリカへ行ってもいいのか?」

「……部長が行きたくないのであれば、止めますよ。けど部長は行きたい、ですよね?」

 上まで登り詰めたいという上昇志向は、夏目にはない。
 だが、色んな経験を積んでみたいという意欲はある。アメリカ行きに興味を示したはずだ。

「もう名前で呼んでくれないのか?」

「え? あ、それは……」

 勢いのまま、名前を呼んでしまった。
 だって、恋人として待っていると言ったのだ。
 それなのに、部長呼びではおかしいと思うし……。

「残念だな。録音でもしておけばよかった」

「ま、また呼びます。……そのうち、に」

 意識すると、絶対に呼べない。今はご勘弁願いたい。

「楽しみにしてるよ」

 夏目は笑顔で、プレゼントされたネクタイピンを見つめている。嬉しそうだし、悩んだ甲斐があった。

(な、なんか恥ずかしいわ……っ)

 渡したプレゼントを、そんな愛おしそうな目で見られると、とてつもなく居たたまれない。

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