スイート・プロポーズ
 と言うか、出来たら早く帰ってしまいたい。
 この雰囲気、どうも心臓に悪い気がしてならないし。

「……円花、本当にありがとう」

「い、いえ」

 夏目は顔を上げ、遠くを見ている。
 円花自身、夏目が悩んでいないとは思っていない。自分の将来や、友人の願い、そして円花のこと。いろんな事を悩んで、考えて、そして結論を下したのだと思う。
 ただ、その決断が円花よりもハッキリとしていて、早かっただけだというだけ。今、夏目の本音を聞くことは難しいから、想像することしかできない。
 その想像の中で、いつか夏目はアメリカへ行かなかった事を後悔する時が来るーーそう思った。

「遅いですし、帰りましょう、か?」

「そうだな」

 仕事はすべて、終わっていた。コピーだって、明日でも構わなかったのだ。会社に残る理由が欲しかっただけ。

「送って行くよ」

「ありがとうございます。……出発は、いつになるんでしょうか?」

 帰り支度を始めながら、円花は聞いてみた。行くべきだと言ったが、笑顔で見送るため、心構えの準備期間は欲しい。

「春が来る前に、行くことになるだろうな」

「……もしかして、話は進んでいたんですか?」

 すんなりと答えが返ってきたので、円花はパッと顔を上げて夏目を見る。

「専務が、一応スケジュールを立ててたんだ」

「そうですか……」

 と言うことは、円花がこの決断を下すことを、史誓は予想していたのだろうか?
 だとしたら、自分は史誓の手の平の上にいた?

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