スイート・プロポーズ
 話を聞ける機会も少なくなるーーそんな風に、言わないでほしい。普段なら笑って流せるのに、今は少しメンタルが弱いから。

「か、帰ってもらってもいいですか?」

「円花……?」

「私……言っちゃいけないことを言いそうなんです」

 今は、夏目を見ることができない。
 あの夜、あんなにもアメリカ行きを応援した自分が、今は行かないでと言いそうになってしまっている。
 こんな自分が嫌で、夏目に見られたくない。

「いいよ。言ってみて」

「嫌、です」

 視界が潤んできた。ダメだ。泣きそう。

「円花」

 夏目がベッドから降りて、円花の目の前に膝をつく。顔を覗き込まれ、見られたくなかった情けない顔を見られた。

「どうした?」

「………………一緒にいて」

 涙が落ちるのと同時に、言葉が漏れた。
 あぁ、自分が嫌になる。
 こんなことを言うなんて……。

「……ごめんなさい……」

「どうして謝るんだ? こんなにも嬉しいワガママは、他にないだろう?」

 一緒にいてほしい……円花は今、確かにワガママを言った。アメリカへ行った方が良いと行った自分が、それとは正反対の気持ちを抱いている。自分では許せないワガママを口にしたのに、夏目は責めるどころか、嬉しいと言う。

「一緒にいるよ」

「でも……っ」

「当然、アメリカにも行く。君が応援してくれから」

 行かないと言えば、円花は自分を責めるだろう。
 そういう女性だと、夏目はよく知っている。

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