スイート・プロポーズ
3年目の...
 時が過ぎ行くのは、本当に早い。楽しい時間程、早く過ぎて行く。
 それが事実であることを、円花は実感していた。
 あの夜ーー一緒にいたいと言ったあの夜から、円花は色々と吹っ切れていた。夏目の傍にいたい気持ちと、応援する気持ちの両方を受け入れることにしたのだ。
 それから円花は、夏目と一緒にいる時間が増えた。多分、社内の人間も薄々は気づいていたはずだ。ふたりが恋人同士であることに。
 でも、そんなこと構わなかった。

「写真、増えたわね」

 2冊目となったアルバムを、美琴がニヤニヤしながら眺めている。
 それは、あの夜以降から増えた、ふたりの写真だ。秋の涼しさの中、日帰りで旅行に行った写真。動物園にも行ったし、水族館にも行った。苦手だったけど、遊園地にも行ってみた。
 冬には映画を観に行き、雑誌に紹介されていたカフェやレストランにも行った。思い出を切り取るように撮った写真は、もう2冊目のアルバムにも及んでいる。

「部長、明日だっけ? いいの? 一緒にいなくて」

 明日、夏目はアメリカへ行く。本当は来月の予定だったが、向こうで働く人が早目に来て欲しいと言っていたし、史誓もなるべく早くに行動を起こしたかった。
 そのふたつが重なり、夏目はバレンタインデーを前にアメリカへ行く。

「今夜は、専務と会うからいいの。それに、チョコを作らなきゃだし」

 バレンタインデーが来る頃、夏目は日本にいない。
 だから明日、早目のバレンタインデーを迎えることに決めた。バレンタインデーに手作りチョコを渡した経験はない。既製品にやプロのチョコに、素人の手作りが勝てるはずもない。
 そう思っていたし、自分は手作りを渡すようなタイプでもない。

「でも、作るんだ?」

「そう。まぁ、いい経験でしょ。美琴も、予行演習になるんじゃない?」

 材料だけじゃなく、道具も買って来た。失敗する可能性が大だから、材料は多めに買っている。

「予行演習? なんで?」

「不二さんに渡さないの? この間、不二さんの美容院に行ってみたの。嬉しそうに話してたから、付き合ってるのかと思って」

「そんなわけないでしょ! 友達よ、友達」

「ふ〜ん、そう」

 まぁ、友達と言うだけ進歩した方だろう。以前なら、友達とも言わなかったはずだ。

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