スイート・プロポーズ
 円花は材料を手に、キッチンへと向かう。今は本を買わなくても、こうしてネットと言う強い味方がいるから助かる。

「短くて2年、だっけ? きっと、メールとか電話しまくるわね〜。遠距離恋愛って、大変よ?」

「経験者みたいに言うのね。……もう、気にしないことにしたの。今この瞬間を大事にするわ。今が良ければ、未来はもっと良いはずでしょう?」

 前向きなことを言う円花に、美琴は驚いたように瞠目する。

「すごい変わりようね。何ヶ月か前、幸福上限説を語ってた人とは思えない」

「自分でも驚きよ」

 気にすれば、不安ばかりが募っていく。先の見えない未来を考えるよりも、今を見る方が良い。
 そう思うことにした。時々は、夏目がいなくなった夜を思い出して気持ちが沈んでしまう時もある。
 でも、あの夜の約束通り、夏目はどんなに遅くても電話に出てくれるし、会いに来てくれる。
 それを実感した後は、もう眠れない夜は訪れなかった。

「でもまぁ、うまくいってるなら良いことよね。ふたりの未来は明るいようで、嬉しいわ」

「ありがと。……で、作らないの?」

 エプロンを付ける円花は、目の前に並べた板チョコや道具を指差す。

「私は味見係に専念することにする。チョコはあげるより、貰いたい方なの」

 そう言って、美琴は1枚の板チョコを手に取り、封を切る。

「全部食べたら、鼻血出すんじゃない?」

「ちょっとだけよ。……って、これビターだったの」

 甘いと思って食べた板チョコは、予想に反して大人の苦さを含んでいた。チョコは甘いものでなければ認めない!
 そう豪語する美琴は、一口かじっただけで板チョコを投げ返す。

「変更する。味見係から、助手になるわ」

「どうぞ、ご自由に」

 円花はやれやれと苦笑し、チョコ作りを始めることにした。


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