スイート・プロポーズ
 円花が早目のバレンタインチョコを作る頃、夏目は悪友と共に飲み屋にいた。今夜はオシャレなバーではなく、大学時代から通っている飲み屋に来たのだ。

「ビールと……焼き鳥の盛り合わせに、枝豆。唐揚げも」

「一気に頼んで良いのか?」

 オーダーを済ませても、史誓はメニューを閉じない。
 まだ何かを頼むつもりのようで、夏目は呆れてしまう。

「食べれるだろ? しばらく、日本食とは離れるんだ。食い溜めしろ」

「最近は、海外でも日本食が食べられる。知ってるだろ?」

「本場とは違うもんだ。向こうで太るなよ? 帰って来た時ブクブクに太ってたら、100年の恋も冷める」

 史誓は笑うと、店員が持って来たビールを嬉しそうに受け取る。

「シャンパンとかワインとかも良いけど、やっぱ1番はビールだよなぁ」

「飲み過ぎるなよ。お前、朝から会議だろ」

 夏目は昼前の飛行機に乗るから、多少、時間の余裕はある。飲み過ぎても、どうにかなるだろう。
 だが、史誓は違う。会社の専務が二日酔いで会議なんて、良い印象は抱かれない。

「大丈夫だって。……そういや、隠すのやめたんだな」

「なんの話だ?」

「小宮さんとのことだよ。もうバレてるようなもんだよな」

 偶然だが、悔しがる秘書を見た。他にも数名、女子社員が残念がっていたのを見たし、一時は心配したものだ。嫉妬した女子社員が、円花に何かするのではないか、と。
 だが、心配は杞憂だった。詳しくは分からないが、何事もないまま今日に至る。

「まぁ、俺も気がけておくよ。お前がいなくなった途端、何かし始める可能性もあるしな」

「何も無いとは思うが……気遣いには感謝するよ」

 ビールに口をつけ、夏目はネクタイを緩める。
 ここ数ヶ月は、中々にハードだった。仕事の引き継ぎもあったが、休日は円花と出かけたりしていたから。
 だが、嫌だと思ったことはない。円花は以前よりもずっと、笑うようになったし、夏目に自分の気持ちを伝えるようになった。

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