スイート・プロポーズ
 季節が過ぎる程に、夏目と連絡する回数は減っていた。時差もあるし、電話ではなくメールの頻度が高かったのだが、ここ最近はそれも無くなっていた。仕方ないと思いつつも、不安はなかった。自分の誕生日が来るまでは。

(来なかったわ……)

 夏目は毎年、円花の誕生日ーー7月7日に、花を贈ってくれた。
 どんなに電話の回数が減っても、メールの内容が短くても、この花が自分の元に来れば、不安なんて感じることもなかった。
 それなのに今年の7月7日、花は来なかった。

「暗い顔ね」

「……美琴、来たのね」

 差し出されたのは、ペットボトル。受け取れば、その冷たさが心地いい。夏生まれだが、この暑さには悩まされる。

「不二さんに会いに来たの?」

 今日の花嫁の髪は、不二 薫が引き受けてくれた。予約が殺到しているイケメン美容師ーーこれも、ひとつの宣伝になる。

「暇だったから、来てみただけよ。会いに来たのは、アイツじゃなくてあんたに」

 美琴はそう言うが、絶対に薫にも会うはずだ。相変わらず、素直じゃない。

「来なかったんでしょ、誕生日の花」

「……うん」

 他人からすれば、たかが花、なのかもしれない。
 けど、円花はその花を見るたびに、夏目が自分を想ってくれている証に、思えた。花は枯れてしまうけれど、そこには確かに、夏目の想いが残っているように思えたのだ。

「忘れてるだけじゃない? 忙しいのよ、夏目部長も……今も、部長って呼んでいいの?」

「みんな、今も部長って呼んでるわ。飯沼部長も、気にしてないし」

 いつの間にか、飯沼も夏目を部長と呼ぶようになっていた。
 それが少し可笑しくて、円花の口元に笑みが浮かぶ。

「そうそう、無理してでも笑ってなさい。沈んだ顔でいたら、幸せが逃げちゃうから」

 そう言って、美琴は笑う。

「撮影、もう終わりなんでしょ? どっか寄ってかない?」

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