スイート・プロポーズ
 振り返れば、雑誌の編集者やカメラマンが話し合っている姿が見える。モデルの撮影は済んでいるし、後は片付けだけだろう。今、円花と美琴がいる教会も、この後、式場見学の案内があると言っていたし、タイムリミットはある。

「仕事じゃないの?」

「有給取った。溜まってるのよね」

 そう言いつつ、美琴の視線は忙しなく動いている。誰かを探しているのだと、円花はすぐに気づいた。
 当然、探している相手も分かる。

「行ってきたら。多分、モデルさんと一緒だと思う」

「…………トイレよ。トイレに行くの」

 本当に、素直じゃない。わずかに頬を染めて、美琴は教会を出て行く。
 その姿を見ると、思わずにはいられない。
 やっぱり、すぐ傍にいてほしい、と。

「はぁ……」

 教会のステンドグラスを見つめ、ついため息が漏れてしまった。
 この美しさを、素直に受け止められる気分じゃない。

「……先に帰ろうかな」

 後は、波奈と梨乃に任せても平気だと思うし、今日はさっさと仕事を済ませて帰りたい。
 そんな気分だ。

「……………………」

 長椅子から立ち上がり、円花は振り返る。ステンドグラスを背に、視界へ飛び込んで来たのは、予想外の人物。
 夏目だった。

「な、なんで……」

 帰って来ているなんて、聞いてない。状況が理解できなくて、思わず目の前の人物は偽物なんじゃないか、と疑ってしまいそうになる。

「え? な、何?」

 夏目は笑顔を浮かべたまま、円花の元まで歩み寄る。手には、一輪の赤い薔薇。

「本数によって、意味が変わるらしい。知ってるか?」

「し、知りませんけど……」

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