君に、溢れるほどの花を
どうやら、雨流の視線に耐えきれなくなったらしい。
咲月はわずかに顔を伏せて。

はぁーーーっと。

また一つ、ため息をつく。
今度は深く、深く。
すべての息を出し切るように。


そうして顔を上げた咲月は、もういつもの彼女に戻っていた。
飄々として、どこか掴みどころのないいつもの彼女に。


「叔母さんたちが捜してる。・・・血眼になってね」

「ん、知ってる。だから、ここに。でも、それは――」

「今更だって、言いたいんだろう?」


こくり、と頷けば、彼女のほうもそれを肯定する。


「そうだね。確かに、今更さ」


ただね、とそこで一旦言葉を区切り、咲月は雨流の向こう、窓の外へと目を向けた。

つられて雨流も外へと目を向ければ、空にはいつの間にか雨雲が漂い始めていた。


「こんないたちごっこは、そう長くは続かない。・・・わかっていたことだけど、もう少し、時間があると思っていたあたしが甘かったのさ」


そこで、咲月は雨流へと視線を戻し、射るような目で見つめてきた。
まるで、逃げることは許さない、とでも言うように。


「雨流、そろそろ覚悟を決めなきゃいけないよ」


(・・・なに?)


ここにきて、雨流は急に違和感のようなものを感じ始めた。

咲月は、一体なにを言っているのだろう?
なにを言おうとしているのだろう?


なんだかよくわからないことを言う咲月は、いつもと変わらず雨流のよく知っている彼女のままで。
それが逆に不自然で、雨流の中でさらに違和感がじわりと広がっていく。



戻れなくなる。

ふと、そんな思いが頭を過って。

どうしてそんなことを思ったのか、このときの雨流にはまったくわからなかった。





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