水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「勇ちゃん、今日もお手伝い有難う。

 氷室君だったわね、
 今日もゆっくりとしていってね」



そう言って声をかけると、
歌姫の方へと、その女性は移動していく。



「水谷さんも、僕にとっては
 母みたいな存在なんですよ。

 母が三人いるって不思議ですよね。

 でもゆっくりと、僕も自分の選んだ道を
 歩いていきたいって思ってます。

 だから氷室君も、掴みかけたその夢を
 大切に抱きしめて歩いてくださいね」



そう言って勇人君は、
再び私に笑いかけた。




教会いっぱいに広がる、
優しく透き通った歌声。



倍音のハーモニー。





そんな優しい音色が、私を包み込むたびに、
力強く、背中を押してくれているような
そんな力を感じていた。






私自身が未来を繋げた日、
氷雨は深夜遅くに
自分の部屋へと戻ってきた。




紙袋の中に覗くのは、
汚れた特攻服。




「氷雨……お帰り」

「あぁ、片付いたよ。
 明日、妃彩に逢いにいって来る」

「うん。
 彼女も凄く喜ぶと思う。
 今日も嬉しそうだったよ」

「由貴もアイツの傍に居てくれて
 アリガトな」

「うん。
じゃあ、おやすみなさい」

「あぁ、お休み」





帰宅したばかりの氷雨の部屋を訪ねて
会話を交わすと、私は自分の部屋に戻って
明け方近くまで、机の上に参考書を開きながら
受験勉強を続けた。





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