水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 

3.コンプレックス -由貴-



高校三年生の夏、
私は受験勉強とバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。

私、氷室由貴【ひむろ ゆき】は、
小学校六年生の時に、両親を飛行機事故で亡くした。

父も母も共に航空会社で働いていた私は、
両親が仕事で忙しい時は、幼馴染であり親友である
金城時雨・氷雨の家へと預けられていた。

幼馴染でありながら、兄弟の様に育ってきた私は
両親が亡くなった後も、一度は施設へと入れられたものの
数日後には、金城家の両親が私の後見役として保護者となることを
申し出てくれて、それ以来、金城家でお世話になってた。


金城の小父さんも、小母さんも私を
時雨や氷雨と同じように分け隔てなく育ててくれた。

それは私自身も凄く感謝しているけど、
今、そんな私も高校三年生となって
将来を本格的に見つめないといけない分岐点になった。


幼馴染の時雨は、医者になりたいと真っ直ぐに医大を目指して
学院入学当初から勉強を励んでいる。

そして時雨の弟、氷雨に至っては
金城の小父さんのように、警察官になりたいのだと
幼い時から、ずっと口癖の様に夢を呟き続けていた。


その度に、警察官の妻と言う立場で、
いろいろと辛い思いをしてきたらしい、金城の小母さんは猛反対。

氷雨は小母さんと、ことある度に衝突ばかりを起こして
今は少し、小母さんとの距離を取りながら、バイクとバイトにのめり込んでる。


そんな氷雨のことを「将来を見つめていない奴」っと
心配するのは時雨。




だけど本当の意味で、私が歩くべきビジョンが見えていないのは
私自身なのだと、自分が一番よく知ってる。



今の私が受け止められる現実は、
来年の三月に、学生生活を終わらせて社会に出るか、
来年の春以降も、大学生として学生生活を続けるか。

学生生活を続けるとしたら、
学費を免状して貰える学校や、奨学金制度みたいなものを
利用しないと、その先の未来は描けない。


学費はクリア出来ても、社会人として独立出来る立場になる私が
何時までも金城の家にお世話になり続けることも出来ない。


そんな現実が、私を不安に追い込んでいく。


不安に追い込んでいく現実は、
私に『夢』と言う未来を、将来を描きたいと思わせるビジョンを
うまく繋げてくれない。




だけど……流され続ける私は、
時雨の言葉に想いをあわせるように、
医者を目指す夢を持っているように、
周囲には匂わせる。




そんな私自身が自ら入り込んだ偽りの夢、
偽りの未来が現実へと少しずつ動き出すのを心待ちにしながら。

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