水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 



『夢』を心から描ける環境。

その『夢』を通して、
相談・ぶつけあえる感情。




幼馴染の時雨と氷雨の持つ、『未来』を感じさせる存在に、
心を隠し続ける私はコンプレックスを水面下で抱き続ける。



二人の生き方を近くで見ていると、
私自身が何もない、空っぽの人生のような気がして。



そしてそんなコンプレックスを与えるもう一人の親友が、
中学生の時に出逢った、早城飛翔。


飛翔は不愛想で無口だけれど、
自分自身の芯だけは、一本しっかりと力強く植わっていて
私の様に、揺れ動くことがない強さを持っているように思えて。




そんな飛翔や、時雨、氷雨と共にいると
時折、皆から置いていかれないように必死になりすぎると
心を置き去りにして、息苦しさすら覚えてしまう。




それでも……
その場所で留まることは出来ないから。


留まってしまったら、
私はその先を決して歩くことは出来なくなりそうだから
今は、流されるように縋りついた未来でも
その『夢』を大切にしていきたい。



そんな風に思うんだ。



今はコンプレックスの塊だとしても、
やがて、そのコンプレックスから始まって行く
未来の扉もあるはずだから。




そんなことを考えながら、
その日も早朝からのパン屋さんでのバイトを終わらせて
時雨の部屋で、午後からの図書館での飛翔を交えての合同勉強の準備を頑張っていた。


時雨と二人それぞれに、
自分のテキストを開いてもくもくとペンを走らせる勉強時間。


金城の小母さんが運んできてくれた、氷入りの飲み物も
気が付けば、ジュースを飲み終えたグラスの中の氷は解けて液体へと姿を変えていた。


ふいに時雨の携帯が着信を告げる。


「もしもし、お父さん何?」

ペンをとめて、ベッドの上に転がしてあった携帯を引き寄せると
そのまま電話に出た。


電話の相手は、金城の小父さん。


「わかった。多久馬総合病院だね。
 行くよ。母さんには伝える?……わかった」


そう言いながら時雨は電話を切ると、
手に握っていたペンをテーブルへと投げつけた。


「時雨?
 どうかしたの? 小父さんなんて?」

怒りのおさまりきらない時雨は、
床から立ち上がると出掛ける準備をする。

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