水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「時雨、小母さんのことは私も気にかけるから。
 時雨が一人で背負わなくてもいいから。

 そろそろ戻らない?

 あっ、あそこ飛翔だよね」


話題転換を試みるのに、もう一人の親友の存在は大きくて
わざと飛翔の名前を大きく呼びながら、はしゃぐように手を振る。


「飛翔、スタンドは?」

「午後から手伝う。
 んで、氷雨は?」

「病院の中。時雨が真っ先に殴り掛かったから引き離してクールダウンってとこかな。
 さっ、飛翔も来たし、そろそろ行こうか?」



促すように時雨が握っている空っぽの空き缶を手から抜き取ると、ゴミ箱に捨てて
そのまま氷雨の待つ待合室へと移動する。

待合室の氷雨は、さっきと変わらないまま
祈るように時間を過ごし続けていた。




「氷雨」

「おいおいっ、
 兄貴の友人、勢揃いかよ。

 受験勉強はいいのかよ。

 今日は図書館で1日じゃなかったのか?」

「氷雨。

 そんなこといっていいんですか?

 貴方が今日やる仕事、連絡を受けて代わってあげたのは
 誰だと思うんですか?」


わざとムードメーカーを演出するように、
そして氷雨よりではなく、時雨・飛翔よりな自分を作り上げる為に
言葉を選びながら続ける。



「由貴、代わったのは俺だ。
 お前は電話してきただけだろ」


そんな飛翔の突っ込みも、
今は会話を続ける為には必要な突破口。



時雨と氷雨が喧嘩せずに会話を続けられるように
何とかきっかけを作りたくて。

そんな思いに気が付いてくれる飛翔は、
私に寄り添う様に会話を合わせてくれる。




その後、私たちは飛翔を知る親友の案内によって
開かずの扉の向こう側の状況を知り、
氷雨を残して病室を後にした。





この部屋に眠る、少女との出逢いが
私の未来に大きく変わってくるなんて
何も知らなかった夏の一日。



今も私は、自らのコンプレックスの海に
もがき続けるように、迷走し続けていた。
< 17 / 140 >

この作品をシェア

pagetop