水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 

3.ぬくもりが恋しくて - 妃彩 -


- 夢(記憶) -

最初に視界に映ったのは暗闇。

やがて、その暗闇に視界が慣れた頃
感じることが出来なかったものが
ゆっくりと浮かび上がってくる。


ずっと見えていたのは天井。


私がいる場所は、ベッド?

思うように動かない体。


部屋には誰も居なくて、
寂しくて……朝までベッドの中で泣いた。



朝になって明るい光が部屋の中に差し込んで、
薄い桃色のナース服に身を包んだ看護師の愛美(めぐみ)さんが
顔を出してくれた。


その日から退院の日まで、
毎日、まだ看護師になりたての愛美さんが
ずっと私のお世話をしてくれた。

体が思うように動かない私を支えてくれたり、
車椅子で散歩に連れて行ってくれたり
毎日、愛美さんと過ごせて楽しかった。


だけど……お父さんもお母さんも
一度も姿を見せてくれない。



「どうしてパパとママは来ないの?」



幼心に愛美さんに尋ねても、
愛美さんはただ黙って唇をつぐんで
何も教えてくれなかった。

その日から更に、数週間が過ぎたある日
私の退院の日が訪れた。


退院の日、
私を迎えに来たのは見知らぬおじさん。


『春宮妃彩さんですね。
 私は、児童施設マリアンナの
 桂田(かつらだ)といいます。
 
 妃彩さんは、
 今日から私たちと一緒に生活することになりました』



桂田さんの言葉は、
私の心をゆっくりと蝕んでいく。



『妃彩さんのお父さんとお母さんは、
 先の交通事故で亡くなられました。

 不幸な事故でしたが、ご両親が全力で守られた
 妃彩さんは、今こうして生きて私と出会っています。

 ご両親が守り通したその命、大切にして精一杯
 生きていかないといけませんね。

 妃彩さんが成人するまでの間、
 私たち、マリアンナのスタッフが
 妃彩さんの両親となり、見守っていきます』




お父さんとお母さんの死。

生き残った命。


思うように動かなくなった体。


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