水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「アイツ。
 多久馬に入院してた車椅子のヤツ。

 入院中、逢いに行ってたんだろ。
 冬に聞いた」


あぁ、そこにも……
スパイがいやがったか。


っと夏休みの間、何度か病院内で擦れ違った
西宮寺冬生と言う名の飛翔の親友の存在を思い出して
うなだれるように溜息を吐き出す。



「逢いに行ってたよ。
 けど……今は逢えねぇ。

 何処にいるかわかんねぇんだよ」

「そうか。
 まぁ、情報が入れば流してやる」



飛翔はそれだけ告げると、
また静かに空を見上げつづけた。





雲が流れているのを追いかけながら
オレは、妃彩を想い続ける。




チャイムが授業の終わりを告げたタイミングで、
教室に戻ると七時間めをブッチして
鞄を持って帰り支度を整える。


学校から向かうのは、
妃彩が最初に暮らしていたあの施設。


ここ以外に手掛かりがない。



一目でいい。

アイツが笑って過ごす
姿だけでも見れたら……。



アイツはそこに居るって言う、
僅かな手がかりだけでも手に入れられたら。




それだけを願いながら向かう
坂の上の施設。


いつものようにロビーを通って
受付に顔を出すものの、
今日も何時ものように断られた。





何度来ても
同じ言葉を告げられるだけなのに
それでも場所に縋るように
通い続ける。






……何やってんだよ。

 やっぱ……重症じゃん……。





受付から施設全体に神経を張り巡らせて、
見渡すものの、
アイツの姿は確認できなかった。





受付から玄関へと、
重い足取りで帰っていく。




施設の門を出たところで、
ゆっくりとオレに近づいてきた
真っ黒のベンツ。



ベンツの窓がゆっくりと下がると、
運転席から、オレを呼ぶ声。




「氷雨、乗りな」



促されるままに、助手席のドアを開けて
乗り込む車内。


運転するのは、
紅蓮六代目総長を務めていた
オレが憧れてやまない、その人。

氷川朔良(ひかわ さくら)さん。





朔良さんは、
オレが乗り込んだのを確認すると
車を走らせ始めた。





「氷雨、優から聞いたよ。
 大丈夫、私に任せな。

 もう調べはついてる。
 逢わせてあげるよ」





全てを見透かした朔良さんの言葉は、
何処までもオレに優しく流れ込んできた。



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